当時勤務していた東日本橋のオフィス
(グーグルマップの写真より引用)
打合せが終わり、3日程経った頃にようやく東林(ひがしばやし)さんとのトレーニングが始まった。それはオレにとって大きな変化であった。
なぜなら、この2年間は米田さんの下でやらせてもらい、クリエイティブ性の高い業務をやらせてもらっていたから。
顧客と直接やりとりする機会も多々もらえって有り難かったが、「WOW」を与えなくてはいけない使命感は緊張の連続で、その答えの出ないダメ出しに嘆き苦しみ、挑み、また苦しみ、成長していくというサイクルを繰り返していた。
この成長過程で自分の甘さを実感したからこそ成長が出来た。しかし会社が次のステージに進むためには部署の仕事をもっと効率的に回す必要があり、オレ自身もそこの追い風を吹かす役割を担う必要があった。それがベトナム進出だった。
その為に東林さんがオレの指導を再びしてくれることになった。
部署のトップに立っている2人のマネージャーは、性格もやり方も指導の仕方も全然違っていた。
米田さん:自由で明るい性格だけどSっ気が強いw。
社内では一番デザイン能力が高く、プレゼン等で斬新で魅力的な物を提案する時は真っ先に指名をされていた。
リーダータイプ
東林さん:慎重で几帳面でぱっと見は怖いけど優しい。
殺人マシーンの様に物事を正確にキレイに間違い無くこなしていくタイプ。
参謀タイプ。
運動をする時にはトレーニングという言葉は使わずに「ワークアウト」という言葉を使うようにしている、
なぜならトレーニングには軍隊のように苦しい事を頑張るという意味合いがあるから。
それに対してワークアウトはワークして結果を外に出していくという意味である。
今まで自由奔放に動き回っていた自分が再び箱の中に入り、
その中で決められた事を着実にこなしていく体制は文字通りトレーニングであった。
一番最初オレが入社した時インテリアデザインの実務なんか全く出来ていなかったから、みんなが話している用語がまず分からなかった。
よく図面に家具を入れる時は127(いちにーなな)や168(いちろくはち)と言った言葉が使われるが、
これは家具の寸法を示したもので幅1200mmx奥行700mmの家具という意味。
そして、その発展形として「平(ヒラ)」「袖有り」もしくは「片袖」、「両袖」といった言葉も使われるが、
これは机に引き出しがあるか、そして何個ついているかで呼び名が変わって来る。
- 平(ヒラ) :袖=引き出しがついていないタイプの机→一般用
- 片袖(カタソデ) :片側だけに机と一体化した引き出しが付いているタイプ→一般用かマネージャー用
- 両袖(リョウソデ) :両側に机机と一体化した引き出しが付いているタイプ→主に役員用
実際にはこんな会話が行われる
A
「机はどうしますか?」
B
「デスクサイズで特に要望は出てないから、一般社員用は127の平を並べて、
役員室の家具だけ168の両袖を木(もく)で入れておいて!」
*木(もく)=木目調を指して重厚感が必要な家具として使われる。
3年前に初めて指導してもらった時は会話さえ、ちんぷんかんぷんだった汗。
だから、まずは内装用語を覚えて会話が出来るようにすることから始まった。
でも、今はもう内装用語も分かり、図面も描けるようになっていた。
技術が不足しているとしてもあの時にように未熟ではなく、
図面が赤ペンまみれという事はないと思っていた
・・・というよりもこれから始める大変さに対してこう強がっていた。
そして実際にはこのようなプロセスで製図=レイアウトプラン作成が始まった。
*レイアウトプラン=平面図に部屋割を決めて家具を入れていく事。
大まかな流れとしては↓の通りとなる。
■STEP
- 図面と要望が与えられる
- それについてエスキースで大体のゾーン分けを行う
- ゾーン分けした後には、部屋の割り振りをしていく
- その後は実際に家具を入れて行き適正な寸法が取れているかチェックする
- 文字や寸法等の表記を入れて完成させていく。
でも考えて見れば、これはいつも行っている業務の延長線上だから別に緊張して臨む事ではない。
そして3年前に初めて指導してもらった時と比べると、オレの技術も格段に上がっているから評価は高いだろうと思っていた。
しかしながら・・・、再び図面が赤ペンまみれになって帰ってきていた。
3年前は新人という事もあり甘い目で見られていたが、今は本当に厳しい目で見られている。
ましてやトレーニング期間も3ヶ月しか無く、オレが成長していかないとベトナム支社もグラグラになってしまう。
オレと同時に東林さんも大いなる気持ちで燃えていた。
だから、図面には基本的なレイアウトのダメ出しだけではなく、
-
- 寸法線(2つのオブジェクト間の距離を示した線)の位置
- 文字の大きさ
- 半角・全角の使い分け
も含めて細かく修正依頼が入った。
図面上でこう示されている部分だ↓↓
そして、この時に重要視していたのは「再現性」であったから、データで残せるようにに提出はすべてメールベースだった。
(この時はまだチャットワークも出ていなかったし、オレもエバンジェリストでは無かった。)
前編 | 後編 |
通常だったら紙で印刷したのを「お願いします!」と机の上に置いておけば良いものを、
それをメールで送付して東林さんに伝えなければ行けなかった。
当時はこんなデジタル上でのやりとりにも慣れておらず、送った後に間違いに気がついた時には再送して最新ファイルに混同する事も多かった。
だから図面はデータで送っているのに、
中島
「東林さん、先程送ったファイルなのですが修正箇所があったので再送しておきました。」
東林さん
「(一個前のファイルを出力して)出力しちゃったよ・・・わかった。」
そして、今ほどデジタル上でチェックを入れていくのに便利なツールも無かったので
-
-
- PDF図面データをJPEGに変換
- パワポに取込み、書き込み
- 図面データをPDFで書き出し
- メールで送信
-
という今だと全部がGoogleスライドで済んでしまいそうな作業も、手間がかかるやり方でやっていた。
やたら非効率なやり方も当時はこれしか無かったから受け入れる事が出来た。
こちらは当時のやりとりを再現したレイアウトのやりとりになる。
■STEP-0
平面図と要望が与えられてそれに対して自分で構成を考えていく。
通常はここで初回の打合せが入り、簡単な質疑応答が行われていく。
・「受付は無人ですか?有人ですか?」
・「デスク幅はいくつですか」等々
■STEP-1
図面を描く際も抽象化→具体化へのプロセスは大事。まずは大まかなゾーンを切り分けて行く。
一般的にオフィス内装の場合は
・来客ゾーン:お客さんが入れるスペース:セキュリティ低い
・執務ゾーン:従業員のみのスペース:セキュリティ高い
に分かれているので、作図のイメージを膨らますために円を描きゾーン分けを行う。
■STEP-2
このステージでもまだ大まかなプロセス。
ゾーン分けしたスペースが実際に部屋を切り分けるのに十分なスペースを確保しているのかを確認していく。
細かく区切るスペースは会議室で、しっかりとアクセスしやすい通路設計が出来ているかを検証していく。
毛虫みたいに表示している線は通路を表す。
■STEP-3.0
このステージでは実際のアイデアと現実をすり合わせていく。
これ以上は手書きで検証しても意味が無いため、CADソフトを使った作業となる。
壁を描いて、家具を入れて働くためにストレスの無いような空間設計になっているか見ていく。
ここで「127(いちにーなな)」サイズのデスクを入れていく。
これも簡単そうに見えるが、当初はAUTOCADの操作に慣れていなかった為、
通常だと1時間掛かる作業も2時間半掛かっていた。
■STEP-3.1
上記で作成した物を東林さんに見せて、アイデアを説明した後に赤ペンでチェックが入れられる。
デザイナーは図面でコミュニケーションを取るのが役目な為、一見して意味不明な物は視覚的に分かりやすい表現の仕方に変えて行く。
またこの段階くらいからデザインの具体性を考えていくので、機能だけではなくより魅力的な提案に変えていけるように家具の選定も慎重に行っていく。
実際のトレーニングの際はこれの3倍くらいの書込みがされて、返される度に辟易としていた。
■STEP-4.0
指摘次項の修正が終わった後は清書して顧客への提出準備を行う。
ビジュアル的にも分かりやすく強調したい箇所をはっきりさせるため、一部の机だけ茶色で表示した。
これがレイアウトの肝になっているため、見返した時に思い出せる施策も忘れずに描いていく。
観葉植物もいくつか入れたので緑の色も付けておいた。
図面が出来上がった段階で大体のデザインイメージはついているので、これが承認されたら次のステージに移る準備がデザイナーの頭の中では出来ている。
■STEP-4.1
顧客への提出を行った後は必ず修正次項が発生する。
そしてそのフィードバックを基に図面を修正していく。
この時は関係者も含めた打合せの中で、図面中央左側に消防法の関係で通路を確保する必要があることが分かった。そのため、大幅なレイアウト変更が生じた。
また、図面下側のソファスペースよりももっと机の確保が大事という事で、このスペースを執務スペースに取り込んでいった。
■STEP-5
前ステップでの指摘次項の修正が終わったので、これを直してレイアウトプランは一旦完了となった。
次はデザインフェーズに入っていくので、修正後はぼんやりとしているデザインコンセプトを固め、絵を描いていくプロセスに移っていく。
このトレーニングがデジタル上で3ヶ月間ずっと行われた。
2年ぶりに再開した東林さんとのトレーニングを描写するとしたら、
アニマル浜口道場出身の小島聡が再び師匠を訪ねて原点に帰った時と似ているんではないだろうか・・・
と言っても誰も分からないと思うが汗
参考程度にニコニコの動画URLを貼り付けしておく。
小島聡、アニマル浜口ジムを訪ねる
https://nico.ms/sm9509570
最初は赤ペンばかりの図面だったのが、やがては指導される内容も少なくなってきた。
ある日、ヘビーなレイアウトを描き終えて社内でコーヒーを飲んでいる時に、海原社長から声を掛けられた。
海原社長
「今度ベトナムの学生と経営者の交流会があるんだけど、一緒に来れる?」
次回に続く・・・
コメント