越境BLOG(小説風) Vol.5 ~職人気質デザイナーに未来は無い

Novel Work

前回の続き

 
 

オレの中で大事にしている価値観がある。
それは大事な価値観においては「固執する」という事。

オレの小さい頃の夢はプロレスラーになることだった。
それを本気で願っていたから小学生の文集には夢として書いていた。

そして1992年当時のワールドプロレスリングは毎週欠かさずみていた。

 

 

当時は土曜日の16:00に放送開始で、この時間を楽しみに待って帰ると
今週はゴルフ中継の為にお休みです。」ということもありおーいと突っ込む事もたまにあった。

上で書いた「しつこさ」はある日プロレスの試合を見ている時に、解説の山本小鉄さんが言っていた事


小鉄
「普通しつこいっていう言葉は悪い意味で使われるんですが、プロレスにおいては一箇所を攻め続けて相手から『しつこい』とか言われるくらいじゃないとダメなんですよ。そうじゃないと大成しませんね。」

それを体現していたのが副大臣にまで上り詰めた馳浩だろう・・・女性に対しても相当しつこいという裏話が良く新日本プロレスのリングアナウンサーだったケロちゃんから出ていたw


EXCITEニュースより引用

社会人になるのが27歳と遅く、周りの人間に対して劣等感を感じていたオレは成長の為には貪欲だった。
しつこく新しい事を覚えて新しいチャンスを掴み取ろうとしつこい姿勢をもっていた。

そして、ようやく仕事の上で尊敬している他部署のGMから本を借りることが出来た。

読み始めてからは自分の価値観を根っこから否定する事の連続だった。

この本はベトナムにITのオフショア拠点を出している会社の社長が書いた本だった。

主にSE(System Engineer)プログラマーと呼ばれてる人を対象に書いているが、オレも内装業界では同じ立ち位置にいたので痛いほど言いたい事が突き刺さった。

厳しく熱い口調でメッセージを届けてくれていた。

総括としては

・日本人として恵まれた環境で生きているけど、それを理解しているのか?
・インドやベトナムだと日本人の1/5の賃金で仕事をしているが、5倍のパフォーマンスを出せているのか?
・技術者でもビジネス視点を持って動け→ただの歯車になるになるぞ

つまり、今まで同じく仕事が降ってくる物と考えて、同じように仕事をしていたのではいつか自分は無価値になる。
特に賃金の安い東南アジアの国々の人に取って代わられる。だから技術という軸と同時に、危機感ビジネスの視点も持って創意工夫をして仕事をしろとのことだった。

アマゾンのレビューを見ると評価が割れるが、オレにとっては大変な良書だった。

そして、その時に自分に取って何が出来るかなと考えた時には

  • 現場を知るデザイナーになること
  • 営業と一緒に動けるデザイナーになること
    (プロジェクト全体を俯瞰した上で細かい金額、スケジュール、納まりを理解すること)

だった。

大変な学びがあったのでこの本から得たことを1つでも2つでも実践出来るように励んだ後は、原GMに本を返しにいった。

ジェット
「この本ありがとうございました。読み終わって感じた事はもっと営業の人間に寄り添ったデザイナーでありたいと思うことでした。あとちょっとしか日本にはいないですが、実践していきます。」

原さん
「おう、そうか。それは良かった。
(海原)社長もこの本書いた篠田さんと知り合いで、今度事務所くるみたいだから挨拶させてもらえば?」

ジェット
「それは是非」

と言って、早速オレは海原社長のところに行った。

当時はオフィスの中も25人くらいしかいなく、社長も一般社員と同じく席があるだけで特別な社長室は無かった。
そのせいか距離も近くフランクに話す事が出来ていた。

ジェット
「社長、先日篠田さんという方が書かれた本読みました。社長の知り合いなんですよね?
今度来るらしいので簡単に挨拶だけでもさせてもらえませんか?」

海原社長
「おー、全然良いよ。篠田さんはベトナムにも拠点持っていて、今度のベトナム人との交流会にも来るからちょうど良いね」


2日経った時に、オレは社内で慣れないAUTOCADを使い製図をしていた。

*上記はGoogle Mapより引用

業界の先輩でもある女性デザイナーの杉本さんは以前からAUTOCADを使い仕事をしていたので、上達方法を教えてもらっていた。

まず覚えるべきはショートカットとその使い方、図面上で物を移動させる際も

  • 「CTRL+CO」
  • 「CTRL+CP」

でそれぞれ役割が違うんだよという事を教えてもらっていた。

COだと指定方向と指定位置に動かせるけど、CPは違うという事でコピー1つ取ってもショートカットの奥深さに「ふむふむ」と頷いていた。
ちょうどその時、オレを呼ぶ声が聞こえた

「中島ー!」

海原社長だった。

当時一つしか無かった会議室の方から手招きして呼ばれた。

*上記はGoogle Mapより引用


この会議室はオレがデザインしたスペースであり、ガラスの壁で仕切られていたので外からも中の様子が伺えた。
もう1人スーツを来た来客者がいるのが分かったので、デスクに置いてある名刺入れを取り歩みを進めた。

海原社長
「こちらが先日紹介して欲しいっていっていた篠田さん、本を読んだんだよね?」

ジェット
「はい、読ませていただきました。篠田さんですか!?初めまして、設計部の中島と申します。よろしくお願いします。」

篠田さん
「初めまして、篠田です。よろしくお願いします。」

一方的に何かの媒体を通じて知り合う人って、いつもオレは「こういう人なんだろうな?」っていうイメージを持って接してしまう。

篠田さんは本の中での口調は「私は〜」で始まり、「〜だ」で終わる厳しい断定口調だったので、すごい厳しい人なんだろうと思っていた

実際に初めてお会いする篠田さんは、スーツ姿が似合うスラーと細身で足が長く優しい雰囲気を纏った紳士だった。
威圧感のある人を想像していたので一気に和んでしまった。

ジェット
「本読ませてもらいました。あれを見たら自分も危機感を持って仕事をしないといけないと思いました。
遠い東南アジアの国にいるワーカーは日本にいる自分とは無縁だと思っていましたが、もうその波は来ているんですね。
私もビジネス的視点をまず持って仕事に励もうと決心しました。」

篠田さん

「そうか、ちょっとでも刺激になったら良かったです。」

ただの一社員、しかも部署でも下から数えた方が早い人間に丁寧に接してくれた事をオレはいまでも覚えている。

この一瞬だけではなく、その後何年も関わる事があったがこの優しい印象は最後まで変わる事は無かった。

キリの良いところで海原社長が区切りを付けてくれた。

海原社長
「今度のベトナム人を含めての交流会には中島も参加させますから、その時また改めてよろしくお願いします。」

話が終わるとオレは自分のデスクの方向に、海原社長はお見送りの為にエントランス方向へ向かった。

デスクに戻るかとすぐにまたAUTOCADの真っ暗な画面で現実に引き戻されたが、
この1週間後に待っていたベトナム人との交流会に思いを馳せていた。

次回へ続く・・・

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